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ワクチンのお話

ワクチンについて

ヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチンに関する情報

  • 2024-03-03

1.ヒトパピローマウイルス(HPV)とは?

 ヒトパピローマウイルスというウイルスは、HPVと略して、「エイチピーヴィー」と呼びます。HPVは性行為によって感染します。大きく分けるとHPVが起こす病気は二種類。「イボ」と「がん」です。
 イボのことを専門用語では尖圭コンジローマといい、その名の通り尖ったイボが男女の生殖器にできます。尿路を閉塞して排尿障害を起こすこともありますし、見た目の問題もあり不安やうつといった精神症状の原因にもなります。生活の質(QOL)を著しく損なうのが尖圭コンジローマです。厚生労働省によると、2016年の尖圭コンジローマの報告数は男性で3,382人、女性は2,055人でした。実際にはもっとたくさんの患者さんが日本で発生していることが推察されます。(【参考】① )
 がんで最も多いのが女性の子宮頸がんですが、子宮頸がん以外にも、アナルセックスによる肛門がんやオーラルセックスに関係した口や喉のがん、男性の陰茎がんの原因になることも分かっています。国立がん研究センターがん情報サービスによると、毎年約10,000人もの女性が新たに子宮頸がんと診断され、約2800人の人が子宮頸がんによって亡くなっています。多くのがんが高齢者に死をもたらす病気なのに対して、子宮頸がんは性行動が関係していることから、20~40歳台の若い人の死亡が多いのが特徴です。40代前半の女性のがん死亡最大の原因が乳がん、その次に多いのが子宮頸がんです。(【参考】② )

2.子宮頸がんはどうして起こるの?

 子宮頸がんの多くはHPVの感染が原因と言われています。HPVの主な感染経路は性行為です。
 HPVはごくありふれたウイルスで、性行為の経験がある女性のうち50%~80%は、生涯で一度はHPVの感染機会があると推計されています。しかしながら多くの人は無症状のまま一過性の感染に終わり、病気を発症しません。HPVが持続的に長く感染し続けると、子宮頚部の細胞に変化が生じて、軽度異形成、中等度異形成、高度異形成・上皮内がんという前がん病変を経て、数年かかって子宮頸がん(浸潤がん)が発生することがあります。
 性交渉の経験のある女性は誰にでも子宮頸がんを発症する危険性があると言えます。

3.子宮頸がんを予防するには?

3-1.子宮頸がん検診

 まず、子宮頸がん検診が大事です。検診によって子宮頚部が前がん病変のうちに発見して治療を行うことで、がんへの進展を防ぐ(二次予防)ことができ、子宮頸がんの死亡を減らすことができます。(【参考】③,   ④ )
 したがって、多くの国では20-25歳以上の女性に定期的ながん検診を行うよう勧められています。がん対策先進国の米国では、2010年に対象女性(21-65才女性)の86.7%が子宮頸がん検診を受けました。残念ながら、日本医師会によると日本での子宮頸がん受診率は20歳代ではわずか22.2%、他の年齢層でも3割前後に留まっています。(【参考】⑤ , ⑥ )
 しかしながら、検診率の高い米国では、年間4000人以上の女性が子宮頸がんで亡くなっています。(【参考】⑦ )これは、がんや前がん病変の人が検診で陽性となる割合は50%~70%と十分に高くないため、検診だけを受けていれば安心とは残念ながら言えないからです。
 がん検診が充実しても、それだけでは不十分なことがよくわかります。

3-2.HPVワクチン

 そこで、次の予防方法にワクチンがあります。
 子宮頸がんの原因と考えられているHPVの感染を予防し、前がん病変やがんにならないようにする(一次予防)ためのワクチンです。現在のHPVワクチンでは、尖圭コンジローマ、そして子宮頸がんの前段階の前がん病変を約6~8割を予防できると報告され、スウェーデンでは17歳未満でのHPVワクチンの接種で子宮頸がんを88%予防できたと報告されています。(【参考】⑧⑮ )
 多くの国ではHPVワクチンを積極的に接種することで尖圭コンジローマと子宮頸がんを減らそうとしています。さらに多くの先進国では、男性にもこのワクチンを積極的に接種するよう推奨しています。米国では女子の13歳から26歳、男子の13歳から21歳に、そして26歳までの男性同性愛者などにも積極的な接種を推奨しています。(【参考】⑨  )
 がんを予防するワクチンはHPVが最初ではありません。例えば、B型肝炎ウイルスは肝炎、そして肝臓がんの原因と分かっており、効果的なB型肝炎ワクチンでがんを予防できます。

以上の通り、子宮頸がん予防には、HPVワクチンと子宮頸がん検診の両方による予防が最も効果的です。

 なお、性行為の際のコンドームの着用で、多くの性感染症が予防できます。残念ながらHPVはコンドームで覆われない皮膚からも感染するため、その予防効果は他の性感染症に比べると限定的だと考えられています。しかし他の性感染症予防には、コンドームは有効です。コンドームを着用しましょう。

4.HPVワクチンについて

ワクチンの詳細については、ヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチンページをご参照ください。

4‐1.HPVワクチンの積極的勧奨の差し控えについて

 2013年4月に予防接種法に基づきHPVワクチンは定期接種になりました。しかし、ワクチン接種後の副作用のリスクが懸念されたために、厚生労働省は積極的接種勧奨を取りやめ、接種率は70%から1%にまで激減してしまいました。積極的勧奨とは、自治体から接種対象者に接種時期をお知らせするなどして個別に接種を奨めることです。現在も、定期接種で公費助成による接種が可能です。
 2020 年10月および2021年1月の2 度にわたり、厚生労働省は都道府県に対し「定期接種対象者とその保護者へ個別送付による情報提供を実施するよう自治体に通知・依頼し、確実な周知を努めること」という事務連絡を出しました。そして、対象者に直接通知を行っている自治体が増え、HPVワクチン接種率が少し上昇しました。

4‐2.HPVワクチン接種後の症状について

 HPVワクチンは接種部位の痛みなどが他のワクチンよりも多いことが研究でわかっています。(【参考】⑪)一方で、全身に起きる重篤な症状についてはHPVワクチン接種が原因で増加はしない、という研究結果が発表されています。(【参考】⑫, ⑬ )
 2018年には、名古屋でのデータ解析でHPVワクチン接種後の重篤な副作用が増加してはいなかったことが報告されました。(【参考】⑭)
 2017年の厚生労働省研究班の報告では、HPVワクチン接種後の多様な症状のある方のうち、経過を確認できた156人のうち115人(73.7%)は症状が消失または軽快し、32人(20.5%)は不変、9人(5.8%)は悪化したとされました。
 ワクチン接種後に何らかの症状が現れた方のための診療相談窓口が全国85施設(全ての都道府県)に設置されています。ワクチン接種医や、地域の医療機関などでの接種前後の診療の充実のために、2015年には日本医師会・日本医学会より「HPVワクチン接種後に生じた症状に対する診療の手引き」が発刊されています。
 接種後の多様な症状に対しては、複数の診療科の専門家が連携して治療にあたり、社会全体でこのような症状で苦しんでいる若い女性をしっかり支えていくことが重要と考えます。我々もプライマリ・ケア医として、他の分野の専門家と協力して真摯に取り組みたいと考えています。
 HPVワクチンの積極的勧奨が早期に再開され、ワクチンによって多くの女性が子宮がんになることのないようにと願っています。

2018年12月21日、日本プライマリ・ケア連合学会は、厚生労働省宛に「ヒトパピローマウイルスワクチン接種の積極的勧奨の即時再開を求める要望書」を提出しました。また同時に、「医療従事者の方へ」の声明、「HPVワクチンの接種をお考えの皆様方へ」の声明も公表しました。

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【2023.04.01追記】
2022年4月より個別勧奨が再開され、2023年4月より9価HPVワクチンが定期接種で選択できるようになりました。
厚生労働省がホームページに公開したリーフレットもご参照ください。(【参考】⑩) 
小学校6年~高校1年相当の女の子と保護者の方へ大切なお知らせ(概要版)
小学校6年~高校1年相当の女の子と保護者の方へ大切なお知らせ(詳細版)

積極的勧奨が差し控えられていた期間の対象者は、キャッチアップとして定期接種が可能です。
キャッチアップ接種リーフレット


参考文献・サイト

① 性感染症報告数の年次推移. 厚生労働省.

② 最新がん統計. 国立がん研究センターがん情報サービス.

③ 北欧諸国における子宮頸がんによる死亡の動向:検診プログラムとの関連(英語).
LAARA, E.,et al. Trends in mortality from cervical cancer in the nordic countries: association with organised screening programmes.   Lancet 8544 (1987): 1247-1249.

④ がん統計:子宮頸がん. The Surveillance, Epidemiology, and End Results (SEER).(英語).

⑤ 米国におけるHPV関連がんとHPVワクチン接種率に関する1975年-2009年の動向(英語).
Jemal, Ahmedin, et al. "Annual report to the nation on the status of cancer, 1975–2009, featuring the burden and trends in human papillomavirus (HPV)–associated cancers and HPV vaccination coverage levels." JNCI: Journal of the National Cancer Institute105.3 (2013): 175-201.

⑥ 日本のがん検診データ. 日本医師会.

⑦ がん統計, 2011年(米国)(英語). 

⑧ HPVワクチンの効果と副反応について検証した26件(73,428名の参加者)の臨床試験を統合して検討した研究(2018年. コクランレビュー、英語).
Arbyn M,et al. Prophylactic vaccination against human papillomaviruses to prevent cervical cancer and its precursors. Cochrane Database of Systematic Reviews 2018, Issue 5.

⑨  HPVワクチンの推奨(英語). 米国疾病管理予防センター(CDC).

⑩ HPVワクチンを受ける方向けに厚生労働省がホームページに公開したリーフレット
小学校6年~高校1年相当の女の子と保護者の方へ大切なお知らせ(概要版)
小学校6年~高校1年相当の女の子と保護者の方へ大切なお知らせ(詳細版)

⑪ 健康な若い女性におけるHPVワクチンの安全性(英語).
Ogawa, et al. "Safety of human papillomavirus vaccines in healthy young women: a meta-analysis of 24 controlled studies." Journal of pharmaceutical health care and sciences 3.1 (2017): 18.    

⑫ 海外での4価HPVワクチンの多発性硬化症などに対する安全性を検証した研究(英語).
Scheller, et al. "Quadrivalent HPV vaccination and risk of multiple sclerosis and other demyelinating diseases of the central nervous system." Jama 313.1 (2015): 54-61.

⑬ デンマークとスウェーデンでの4価HPVワクチンの自己免疫、神経、静脈血栓に対する安全性を検証した研究(英語)
Arnheim-Dahlström, et al. "Autoimmune, neurological, and venous thromboembolic adverse events after immunisation of adolescent girls with quadrivalent human papillomavirus vaccine in Denmark and Sweden: cohort study." Bmj 347 (2013): f5906.

⑭ 日本人の若い女性においてHPVワクチンと接種後症状については関連がない:名古屋スタディの結果.
Suzuki,et al. "No association between HPV vaccine and reported post-vaccination symptoms in Japanese young women: Results of the Nagoya study." Papillomavirus Research 5 (2018): 96-103.

⑮ ヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチンによって子宮頸がんが減少した報告(英語)
Lei J, Ploner A, Elfström KM, Wang J, Roth A, Fang F, Sundström K, Dillner J, Sparén P. HPV Vaccination and the Risk of Invasive Cervical Cancer. N Engl J Med. 2020 Oct 1;383(14):1340-1348. doi: 10.1056/NEJMoa1917338. PMID: 32997908.

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